グリーンディール、環境政策をビジネスに活かせるか?

ESG(環境・社会・統治)を重視する動きが、
金融政策を変えようとしています。

環境を重視する欧州中央銀行(ECB)は、
2021年から資産購入プログラムの対象に、
金利が環境などの成果目標に連動するそうです。

「グリーンQE(量的金融緩和)」とは?

国連が推奨するSDGsの方向性を
どうビジネスに活かすのか?

横森が解説しました!

グリーンディール、環境政策をビジネスに活かせるか?

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ESGが変える金融政策 環境・格差で緩和に傾斜も

Global Economics Trends 編集委員 太田康夫

2020年10月25日 日本経済新聞 

ESG(環境・社会・統治)を重視する動きが、金融政策を変えようとしている。環境を重視する欧州中央銀行(ECB)は、2021年から資産購入プログラムの対象に、金利が環境などの成果目標に連動する債券を加えることを決め、将来の「グリーンQE(量的金融緩和)」への道を開いた。米連邦準備理事会(FRB)は「格差」への配慮から長期目標を修正し、最大雇用を「幅広く、インクルーシブ(包摂的)な目標」と位置付けた。ともに経済成長の持続可能性を高めるためで、とりわけ格差への配慮は緩和色を強める要因になる可能性がある。ただ、そうしたテーマはもともと財政の役割であることに加え、経済成長を最優先する立場からは政策効果をそぎかねないとの懸念もある。超低金利で旧来型の金融政策の効果が薄れる中で、中央銀行のあり方が問われている。

急速に高まる環境への関心

金融政策はもともとインフレなき経済成長が目的で、1~2年先までの経済運営に対する影響に主眼を置いて実施されてきた。近年、気候変動が長期的に経済発展の大きなリスクになるとの議論が活発になった。

国際決済銀行(BIS)は20年1月に、パトリック・ボルトン、モルガン・デスプレス、ペレイラ・シルバ、フレデリック・サママ、ロメイン・シュバルツマンの5氏によるリポート(The green swan – Central banking and financial stability in the age of climate change)を発表した。そのなかで「気候変動は新しいリスクだが、不確実で、社会などに対し複雑な影響を与えるため、金融安定モニタリング(監視)の対象にするのは簡単ではない。伝統的な(振り返りをベースとする)バックワードルッキングなリスク評価の仕組みは、気候変動が生み出す将来リスク――たとえそれが金融システムに壊滅的影響を与えるグリーンスワン(めったに起きないが、起きれば影響の大きい出来事)であっても――には十分ではない。中央銀行は気候関連リスクをよく理解し、ほかの官民セクターとリスク削減で協力して対応する必要がある」と強調した。

また、米サンフランシスコ連銀が20年7月に発表した論文(Climate change: Macroeconomic impact and implications for monetary policy)で、筆者であるイングランド銀行のサンドラ・バッテン、リアノン・サワブツ、ミサ・タナカの3氏は「気候変動とその影響の削減策は、中央銀行の金融安定目標に影響を及ぼし得る。商品供給の減少のほか、干ばつや洪水、海水面の上昇による生産性ショックは、インフレ圧力を強める可能性がある。二酸化炭素(CO2)の急激な排出規制は、マクロ経済には供給ショック要因になる。中央銀行はマクロ経済モデルに、短期的には極端な気候の影響を含む必要がある。温暖化が徐々に進むことによる潜在成長率に与える影響も、マクロ経済モデルの道具箱に加える必要がある」と指摘している。

ECB、「グリーンQE」への道開く

ラガルドECB総裁は環境重視に一歩踏み出した=ロイター

環境配慮は実際の金融政策にも反映されようとしている。ECBは9月22日、金利が欧州連合(EU)の環境目的に合致した持続可能性パフォーマンス目標に連動した債券を、21年1月から適格担保として受け入れるとともに、資産購入プログラム、パンデミック緊急購入プログラムの購入対象にすることを決めた。現時点ではそうした債券(グリーン資産)の量が不十分で購入額は限定的になるものの、市場が拡大すれば積極的な環境資産購入で気候変動対策に働きかけるグリーンQEの枠組み作りが動き出す見通しだ。

金融政策に環境要因を織り込むことについては賛否両論があった。18年に英ウエスト・イングランド大学のヤニス・ダフェーモス、英グリニッジ大学のマリア・ニコライディ、英ロンドン大学のジョールジョ・ガラニスの3氏が論文(Climate Change, Financial Stability and Monetary Policy)で「グリーンQEは、気候変動によって金融システムがさらされているリスクを低減する。それは長期的な視点で、循環的なツールというよりは、産業政策的な政策だ。中央銀行の購入によってグリーンボンドの価格が上がれば、環境対策に取り組む企業の収益性改善や流動性向上に寄与する。ただQEそれだけで、気温上昇を抑制する力があるわけではなく、ほかの政策と連携して実施されるべきだ」と主張している。

それに対し独連銀(ブンデスバンク)のバイトマン総裁は19年、講演(Weidmann and Mauderer: Protecting the climate a hugely important topic for central banks)で「我々の目的は物価の安定で、そのための手段は市場に中立的であるべきだ。量的緩和は景気対策で、金利が低いときだけ環境対策を実施するという(グリーンQEの)理屈は理解できない。グリーンボンドに傾斜した資産購入は、欧州連合条約127条の原則に反する。環境を政策目標にする金融政策は、負担がかかりすぎるリスクがある。長期的には中央銀行の独立性も問われかねない。環境対策は民主的で正当性のある機関が、正しい道具で対応すべきものだ」と、慎重な意見を表明していた。

ECBは市場の中立性の原則を維持し、ある部門を意図的に優先することを禁じており、バイトマン総裁の指摘は伝統的な中央銀行論に立脚すると正論だ。ただ、EUが19年12月に、50年に温暖化ガス排出ゼロを目指すグリーンディールを打ち出すなか、仏経済財政産業相や国際通貨基金(IMF)専務理事などを歴任し、調整力には定評があるラガルドECB総裁が環境重視に一歩踏み出した。グリーンQEに向けては、中立性との整合性なども含めた制度設計の見直しが必要になる。

福祉改善の可能性も

米国では新型コロナウイルスの感染が広がるなかで、黒人の死亡率の高さが注目された。白人に比べて貧しく、十分な医療が受けられない実態が背景にあるとみられ、格差是正を求める声が強まっている。

FRBは8月にラウラ・フィーブソン、ニルス・ゴウネマン、ジュリー・ホッチキス、カレル・メルテンス、ジェイ・シムの5氏による論文(Distributional Considerations for Monetary Policy Strategy)を発表している。そのなかで「景気後退で超低金利に回帰し、格差の拡大は金融政策上も重要になっている。第1に所得の高い人が低い人より貯蓄する性向を強めれば、所得格差の拡大は貯蓄の増加と実質金利の低下をもたらす。第2に所得格差は景気後退をより厳しくする。その日暮らしの消費者は貯蓄をしていない傾向があり、景気後退が重くのしかかる。また、マイノリティーや教育を受けていない人は雇用機会に恵まれない。景気後退は平等な重荷にはならない。格差拡大で需要がより経済のネガティブショックに反応しやすくなり、適切な金融政策がとられなければ、景気後退はより深くなる」と、格差が金融政策遂行上も無視できない要因になっている実態を明らかにしている。

また、IMFは9月に論文(Should Inequality Factor into Central Banks’ Decisions?)を発表した。筆者のニール・ジャコブ・ハンセン、アレサンドロ・リン、ルイ・マノの3氏は、不平等が金融政策に与える影響を、モデルを使って分析した。「分配の問題は中央銀行の使命の外だが、議論は始まっている。富と所得の格差は金融政策の効果に影響を及ぼす。低金利政策は貧しい人々に利益をもたらし、より高い賃金を生み出す。中央銀行が金融政策を実施する際に不平等を考慮すれば、特に典型的な金利ルール(テーラールール)に従う場合、福祉が改善される可能性がある」と主張している。

FRB、自らの使命を修正

FRBのパウエル議長は低所得層に配慮する姿勢を示す=ロイター

米国の金融政策を決める米連邦公開市場委員会(FOMC)は8月27日に「金融政策の長期的目標」を改定した。FOMC、FRBに付託された使命(マンデート)である「物価安定」と「最大雇用」を修正したものだ。

「物価安定」に関しては、目標の2%を継続的に上回ったり下回ったりすることを懸念するとしていたのを、「物価上昇期待が2%となるように、中期的な平均が2%となるようにする。2%を下回ったあとは、2%を緩やかに上回る水準を目標とし、平均で2%をめざす」としている。これは平均物価目標政策と呼ばれる政策である。

ESGとの関連で注目されるのは「最大雇用」のマンデートも見直したことだ。これまでは「最大雇用をめざす」ことにしていたが、それを「最大雇用は広いベースに基づき、インクルーシブな目標である」と定義を変えている。

これについてFRBのパウエル議長は講演(Speech by Chair Powell on new economic challenges and the Fed`s Monetary Policy Review)で、目標見直しの要因の一つとしてコロナ禍前の雇用情勢をあげ、「コロナ前、長期の景気拡大は幅広い利益をもたらした。黒人やヒスパニックの失業率も下がり、白人との失業率の差も最低レベルに縮まった。頑健な雇用はとりわけ低所得層に恩恵をもたらす。長く働く場を見いだせなかった人々は、職が得られるとその家族やコミュニティーを利し、経済の生産性も上げる」と強調した。

そのうえで「我々に付託された使命(マンデート)で雇用に関する部分は、最大雇用は広いベースで、インクルーシブな目標であると修正された。この変更は強い雇用、とりわけ低中所得のコミュニティーの多くの人々にとっての雇用の恩恵を高く評価した結果だ」と強調した。

マンデートは金融政策運営上の基本で、金融政策はそれを目指して実施される。今回の変更を受けて、雇用情勢を判断する際、マイノリティーの失業率に対する目配りを強め、結果的にインフレの恐れがない限り、金融政策の緩和バイアス(偏り)が強まる公算が大きい。

問われる日銀のETF購入

欧米では金融政策の考え方が変わりつつあるようにみえるが、日本は難しい問題を抱えている。日銀は気候変動対策は重要だが、それは基本的には政府の役割との考え方で、金融政策でグリーンボンドを購入するといった施策には慎重だ。

かつて日銀は市場の中立性が問われたことがある。証券化ブームに乗って資産担保コマーシャルペーパー(ABCP)を購入対象にしたが、証券化の業者支援色が強すぎたことに加え、目立った効果もなかった。それどころか、その後サブプライムロ-ン(信用力の低い個人向け融資)問題で証券化の欠陥が明らかになり、証券化商品をオペ対象にまでした日銀の拙速さが浮き彫りになった。

より厄介なのは格差だ。日銀は金融政策の一環として上場投資信託(ETF)を通して株式を購入し、その保有残高は34兆円にも達している。事実上、金持ちの資産運用への支援になっている。また、このオペレーション自体、上場企業を支援し、中小企業との企業格差を広げる側面もある。政府は株価への配慮から日銀の株買いを歓迎してきたが、格差の金融政策への影響が国際的に注目されれば、日本の異常さが際立つことになりそうだ。

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